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東京高等裁判所 平成8年(ネ)4077号 判決 1998年7月29日

控訴人

モトコマ株式会社

右代表者代表取締役

長谷川修一

右訴訟代理人弁護士

若菜允子

被控訴人

有限会社須佐金型製作所

右代表者代表取締役

須佐一行

被控訴人

有限会社幸和

右代表者代表取締役

近藤鴻

右両名訴訟代理人弁護士

石附哲

主文

一  原判決主文第一項を取り消し、被控訴人有限会社須佐金型製作所の請求を棄却する。

二  原判決主文第二項中、控訴人に対し金五四万六四二一円及びこれに対する平成五年四月一六日から完済まで年六分の割合による金員を超える金員の支払を命じた部分を取り消し、被控訴人有限会社幸和の請求中右取消しに係る部分を棄却する。

三  控訴人のその余の本件控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人と被控訴人有限会社須佐金型製作所との間に生じたものはこれを五分し、その三を控訴人の、その余を同被控訴人の各負担とし、控訴人と被控訴人有限会社幸和との間に生じたものはこれを五分し、その三を控訴人の、その余を同被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  被控訴人有限会社須佐金型製作所は控訴人に対し金三四六五万円及びこれに対する平成六年七月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人有限会社幸和は控訴人に対し金三四六五万円及びこれに対する平成六年七月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要及び証拠関係

一  本件事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これをここに引用する(ただし、被控訴人有限会社須佐金型製作所を「被控訴人須佐金型」と、同有限会社幸和を「被控訴人幸和」とそれぞれ略記する。)。

1  原判決書三枚目表一〇行目から末行にかけての「訴外小林金型を被告に紹介し」を「訴外小林金型に依頼し」に、同裏三行目から四行目にかけての「原告幸和の紹介で原告須佐金型が本件バールの鍛造金型の製作を請負い」を「被控訴人須佐金型が本件バールの鍛造金型の製作をすることになり」にそれぞれ改め、同九行目冒頭から同一〇行目末尾にかけてを削る。

2  同四枚目表五行目の「争点は、」の次に「控訴人と被控訴人らとの間の契約関係の有無及びその内容、」を加え、同行目の「有無及び」を「有無並びに」に改める。

二  当審における控訴人の主張

仮に被控訴人幸和主張の代金請求権が認められるのであれば、控訴人は、同被控訴人が納入したパイプレンチが肉厚の不良品であったことにより控訴人が訴外横田自研工業に依頼して肉厚部分を研磨させた費用二一万二〇四〇円及び同被控訴人に対する過払金一五〇万五〇〇〇円をもって相殺する(平成一〇年五月二五日の当審第七回口頭弁論期日に意思表示をした。)。

三  証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第三  争点に対する判断

当裁判所は、被控訴人須佐金型の本訴請求、控訴人の反訴請求はいずれも理由がなく、被控訴人幸和の本訴請求は本判決主文第二項記載の限度で理由があるが、その余は理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。

一  前記当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲六、三八の1ないし3、乙一、三、一一、一六ないし一八、三四、証人小林政弘(原審)、同田辺稔(原審)、同外山秀行(原審)、控訴人代表者(当審)、被控訴人幸和代表者(原審)、同須佐金型代表者(原審、当審))及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

1  控訴人は、昭和五一年一〇月に設立された会社であり、旧商号を「株式会社長谷川製作所」と称し、家庭金物の製造販売等を業としていた。

被控訴人幸和は、平成二年六月、鍛造業を営む兄の手伝をしていた近藤鴻が独立し代表取締役となって設立した会社であり、自動車部品の精密鍛造、作業工具の型打鍛造等を業としていたもので、控訴人とは平成三年三月ころから取引をするようになった。

被控訴人須佐金型は、その代表取締役である須佐一行が昭和五一年六月に勤務先を退職して開業し、昭和六三年一一月に法人登記をした会社であり、金属製品用金型製造等を業としていたもので、被控訴人幸和とは平成二年ころから取引があったが控訴人とは従前直接の取引はなかった。

2  控訴人は、平成四年一月ころ、頭部、尾部の両端を鍛造品とし、その中間を空洞のパイプとする本件バール三四万丁(合計金額一億六八〇六万円)を製作して訴外東宝産業貿易株式会社(以下「訴外東宝」という。)を介して輸出することを企画した。控訴人は、右バールの鍛造品部分の製作を被控訴人幸和に、パイプ部分の製作を訴外株式会社佐藤商店(以下「訴外佐藤」という。)にそれぞれ注文しこれを控訴人が組み立てることとし、同年二月末ころ、控訴人代表取締役である長谷川修一、被控訴人幸和代表取締役である近藤鴻及び訴外佐藤の営業担当者である田辺稔が集まり、被控訴人幸和と訴外佐藤とがそれぞれ控訴人に対し、同年四月ころにそれぞれその製品を納めるとの契約をした。なお代金支払は毎月一五日締の翌月二〇日払との約束であった。

3  被控訴人幸和は、右鍛造品を製作するための金型を訴外小林金型に注文して製作することを検討していたが、訴外小林金型の取引先であるバクマ工業と控訴人とは競合関係にあったところ、訴外小林金型が控訴人のために前記のような金型を製作していることがバクマ工業の関係者の知るところとなり、そのため、訴外小林金型は被控訴人幸和に見積書を提出し金型製作の前提となるモデル型を数個製作したのみで金型製作を断念した。なお訴外小林金型に対する右金型製作代金は訴外小林金型に対する注文者である被控訴人幸和から支払われた(後記訴外小林金型立替分一八万五四〇〇円)。

4  このような経緯から、被控訴人幸和は、平成四年四月かねて取引のあった被控訴人須佐金型に対し右金型の製作を注文した。

ところで控訴人は、前記のとおり家庭金物の製造販売等を業としているため、鍛造や金型については詳しくはなく、鍛造品の製作を注文するに当たっても詳細な図面を作成する技術を有しておらず、注文する鍛造品の概要を手書きの図面で示すにとどめ、その詳細な設計はこれを製作する被控訴人幸和に委ねた。そして被控訴人幸和も、鍛造品を製作するに際しての金型の形状等につき詳細な図面を作成することはできず、そのため、前記のとおり訴外小林金型が金型を製作する前提となるモデル型を製作する際にも、訴外小林金型は、被控訴人幸和のみならず控訴人に対し完成品の寸法が鍛造品製作のため加熱した状態を前提とするのか通常の気温を前提とするのか等を確認して作業をした。

5  被控訴人須佐金型は、被控訴人幸和から金型製作の注文を受けるに際して、なるべく早く製作するように指示を受けたが、具体的な納期までは指示されなかった。

被控訴人須佐金型は、被控訴人幸和からの前記注文に従い、平成四年五月ころ、第一次の金型を製作し、これを用いて被控訴人幸和が鍛造品を製作した。ところが、控訴人は頭部の鍛造品部分が四五度程度曲がった状態となることを考えていたのに右製品は直線状のもので寸法も当初予定したものより大きかった。

このようなことから控訴人は、被控訴人幸和を介して被控訴人須佐金型に修正を求めたが、控訴人、被控訴人幸和の前記技術力もあり、被控訴人須佐金型に対し図面等を用いた的確な指示をすることができなかった。

6  そこで被控訴人幸和は、控訴人に対し、被控訴人須佐金型に直接指示を出すよう求め、被控訴人須佐金型も、平成四年五月ころ、本来はいわゆる金型屋である被控訴人須佐金型側が製作すべき電極モデルを控訴人において製作しこれによりその意図するところを明示するよう控訴人に求めた。

そのため控訴人は、そのころ、銅を用いて電極モデルを製作しこれを被控訴人須佐金型に交付し、以後直接被控訴人須佐金型に対し具体的な指示を出すようになった。なお控訴人は、電極モデルを製作する設備、能力は有してはいたがこれまでプラスチック金型の製作経験しかなかったので、右電極モデルの製作は外注せざるを得なかった。

7  被控訴人須佐金型は交付を受けた電極モデルを基に平成四年六月ころ金型を完成した。しかし、金型の抜き型と打型の形状が合致せず、そのため右金型を用いて製作された鍛造品の釘抜き部分の厚みが約一ミリメートル薄いとの欠陥が生じた。

8  控訴人は、訴外東宝に対し本件バールを平成四年五月二〇日から一二か月で出荷すること、納品の開始時期が右より二か月以上遅れたときには遅延損害金支払の請求を受けても異議を述べないことを約していた。そして、訴外佐藤からの前記のパイプ製品は同年四月ころには入荷可能な態勢となったが、被控訴人幸和に注文した鍛造品部分の製作につき完成のめどがたたず、そのため、控訴人は同年八月一八日ころ、被控訴人幸和に対し、他の業者に依頼するので注文も解約する旨を述べた。

そして控訴人は、以後訴外株式会社伸幸工業(以下「訴外伸幸」という。)に鍛造品部分の製作を注文することとし、訴外伸幸が被控訴人須佐金型から金型の引渡しを受け、これを訴外田中金型製作所に注文して補修する等した上、鍛造品部分を製作した。

以上の事実によると、控訴人は、本件バール製作に際し、鍛造品部分の製作を被控訴人幸和に注文し、被控訴人幸和はそのための金型製作を当初訴外小林金型に、その後被控訴人須佐金型に注文したことが認められる。これに対し被控訴人須佐金型は、右金型製作を当初より控訴人から注文を受けた旨主張する。しかし、被控訴人須佐金型代表者も、少なくとも平成四年四月の当初の注文は、被控訴人幸和から受け、その代金も被控訴人幸和から支払を受けた旨を供述しており(原審、当審)、当初から直接控訴人との間で契約が成立していたとの事実についてはこれを認めるに足りる証拠はないといわねばならない。

もっとも被控訴人須佐金型は、少なくとも同年五月以降は、控訴人との間に直接の契約が成立したとも主張し、具体的には、控訴人に対し請求書を出し、同年七月二〇日に一一五万円、八月二一日に一三〇万円の支払を控訴人から受けていると主張する。確かに証拠(甲九、乙九、控訴人代表者(当審))によると、右請求及び支払の事実が認められる。

しかし、証拠(乙一〇、控訴人代表者(当審))によると、同年七月二〇日の支払は、被控訴人幸和の代表取締役である近藤鴻の依頼に基づいて被控訴人幸和への前払の趣旨でされたこと、また同年八月二一日の支払は右と同趣旨のほか被控訴人須佐金型が保管していた一連の金型を新たに鍛造品製作を注文した訴外伸幸側に円滑に交付してもらう必要性を考えてされたものであること、控訴人は被控訴人幸和に対し右支払に対応する請求書の交付を求めていたことが認められ、右事実に照らすと、右請求及び支払の事実があるからといって被控訴人須佐金型と控訴人との間に契約が成立したとすることはできない。

また、前記認定のとおり控訴人と被控訴人須佐金型との間には従前取引がなかったのであるから、仮に控訴人が被控訴人幸和を除外して被控訴人須佐金型との間の契約に切り替えたのであれば、両者の間で契約代金、納期等について協議、折衝があってしかるべきであるのに、本件全証拠によってもその形跡はなく、控訴人が被控訴人須佐金型との間の契約に切り替えなければならない事情も見当たらない。

以上の事実に照らすと、被控訴人須佐金型と控訴人との間に同被控訴人主張の契約の成立を認めることはできず、右契約を前提とする被控訴人須佐金型の請求は失当である。

二  被控訴人幸和の請求について

1  被控訴人幸和の本件バールに関する代金請求は、控訴人との間の請負契約に基づく請求と解されるところ、前記のとおり被控訴人幸和は控訴人に対し完成品を引き渡したとはいえず、したがってその代金請求は失当といわねばならない。

しかし、前記認定の事実によると、控訴人は、平成四年八月一八日ころ被控訴人幸和に対し、鍛造品製作注文を解約する旨伝えた事実が認められるところ、次段において判断するとおり被控訴人幸和に履行遅滞の事実は認められないから、右解約は民法六四一条によりされたものと解するのが相当である。したがって、控訴人は右解約に伴って被控訴人幸和に生じた損害を賠償する責を負うものであり、被控訴人幸和の請求はこれを含むものと解される。

2  被控訴人幸和は右損害額として別紙記載の金額(差引合計一〇三万六五六一円)を主張する。そして証拠(甲一、二、被控訴人幸和代表者(原審))及び弁論の全趣旨によると、被控訴人幸和はその売掛帳簿に右金額(ただし消費税相当額は別途)を売掛金として計上していること、右金額は被控訴人幸和の営業圏内におけるいわゆる相場に従って記載したことが認められ、これによると、被控訴人幸和は控訴人に対し以下に判断するほかは右記載の金額を損害金として請求できるものと認めるのが相当である。なお、右請求は、被控訴人須佐金型が控訴人から直接支払を受けた前記合計二四五万円に相当する仕事を除いた残余の仕事に関するものである(原審の被控訴人須佐金型代表者及び弁論の全趣旨によると同被控訴人が控訴人から支払を受けた右代金もいわゆる相場に従って算出されたものであると認められる。)。

(一) 平成四年六月一九日欄のバリモデル、打型インロー段加工について

控訴人は右注文をしていないと主張する。しかし、控訴人は右物品等について訂正、返品伝票を作成し、同書面に製品にならなかった旨付記して被控訴人幸和に送付しており(甲三の1及び弁論の全趣旨)、右事実によると控訴人の注文により右製品が納品されたと認められる。控訴人は右製品の瑕疵等につき主張、立証をしないから、被控訴人幸和主張の金額を認めるのが相当である。

(二) 平成四年七月九日欄、同年八月五日欄、同月三一日欄の各パイプレンチについて

証拠(乙一三)及び弁論の全趣旨によると、右パイプレンチは引渡しを受けたが肉厚が厚く、そのため控訴人が、横田自研工業に補修を依頼し、補修代二一万二〇四〇円を支払った事実が認められる。

右金額は被控訴人幸和の請負業務の瑕疵による損害であると認められるところ、控訴人は、被控訴人幸和に対し、平成一〇年五月二五日の当審第七回口頭弁論期日に右損害金をもって相殺する旨の意思表示をしており、これにより被控訴人幸和の前記損害賠償請求権は右金額について消滅した。

(三) 平成四年八月一五日欄の試作代(合計二七万八一〇〇円)について

右作業の事実を認めるに足りる証拠はない。

(四) 小林金型、須佐金型立替分について

別紙では立替金と記載されているがいずれも被控訴人幸和の下請けに対する支払代金であり、控訴人の前記解約によって被控訴人幸和に生じた損害に含まれる。

控訴人は、被控訴人幸和に本件バール製作及びパイプレンチ製作を合計二四四万五〇〇〇円で発注し、これまでに合計三九五万円を支払っているので未払金はないと主張し(右過払金一五〇万五〇〇〇円による相殺も主張している。)、控訴人が平成四年七月二〇日に一一五万円、同年八月二一日に一三〇万円をそれぞれ被控訴人須佐金型に支払ったことは前記のとおりであり、そのほか被控訴人幸和が控訴人から同年六月三〇日に金額一五〇万円の約束手形の交付を受けこれが決済されたことは同被控訴人の自認するところである。

確かに製品の製作を発注するに際しては、見積りをした上協議して代金額を確定してから発注するのが一般であり、右の作業がなくては、本件のように控訴人が訴外東宝に対して納品する場合にはいくらで納品すべきか確定できずしたがって控訴人の利益計算もできないことになるのであるから、本件にあってもその手続が踏まれていたことが推認される。しかし、前記認定の事実及び証拠(甲六、控訴人代表者(当審))によると、訴外小林金型から金型製作の見積書(甲六)が提出され、これを前提にして控訴人と被控訴人幸和との間で鍛造品製作及び金型製作代金について協議されたことは認められるが、具体的な金額の取決めがされたことを認めるに足りる証拠はない(控訴人の発注の際の指示が明確でなく製品の詳細が当初確定していなかった上、途中で下請けが訴外小林金型から被控訴人須佐金型に変更されたことからすると契約締結の時点で具体的な金額を取り決めることは困難であったともいえる。)。

控訴人は、本件バール製作の代金として前記二四四万五〇〇〇円のうち一三九万五〇〇〇円を主張する。しかし、本件バールの製作予定台数は前記認定のとおり合計三四万丁(合計金額一億六八〇六万円)に及ぶものであり、鍛造品の製作はその部品の製作であるが、控訴人の右主張によると、一丁当たり約四円で契約が成立したことになってしまう。ところで、証拠(乙三)によると、控訴人が訴外東宝に対し納品するにつき、最低の単価でも一丁当たり三一〇円で契約したことが認められ、また証拠(乙二五の4)によると、控訴人は、本件紛争後鍛造品の製作を請け負った訴外伸幸に対し、少なくとも一丁当たり三〇円(頭部と尾部が別の鍛造品であったとするとその約二倍)を支払った事実が認められ、これらの事実に照らすと、控訴人の前記一丁当たり約四円とする主張は採用できない。そして他に前記協議に基づく被控訴人幸和との間の代金確定の事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、控訴人主張の金額をもって本件バール製作に関する請負契約が締結された事実を認めることはできないから、過払をいう控訴人の主張は相殺の主張を含めてその前提を欠くもので採用できない(もっとも、控訴人の主張は、前記訴外小林金型からの見積書を前提に、被控訴人幸和に対し支払うべき金額中、現実に被控訴人らがした金型製作とこれに基づく試作品作成に係る作業に対する対価として前記一三九万五〇〇〇円を主張し、これにつき過払であると主張するものともみえる。しかし、右についての算出根拠は明らかでなく、また右金額をもって控訴人と被控訴人幸和との間に代金が確定したとの事実を認めるに足りる証拠もなく、したがって、控訴人の主張を右のとおり善解しても、その主張は失当である。)。

また控訴人は、被控訴人幸和の被控訴人須佐金型への立替分の請求について、右が不良品であったとしてその支払を拒む旨を主張するが、次段において判断するとおり、被控訴人らにつき債務不履行を認めることはできないから、右主張も同様に失当である。

(五) 以上によると、被控訴人幸和の請求に係る分は五四万六四二一円となる。

(計算式)1,036,561−(212,040+278,100)=546,421

三  損害賠償請求について

1  控訴人は、反訴として、被控訴人らの作業の遅滞を理由に訴外東宝との間の契約が解除され、(賠償金を支払ったほか)得べかりし利益を得られなかったとして、右逸失利益につき損害の賠償を請求する。そして証拠(甲五、乙三、四、三二の1、2、控訴人代表者(当審))によると、控訴人は訴外東宝から引渡しが遅れたとして三〇〇万円の損害賠償請求を受け、平成六年一一月にこれを支払ったことが認められる。

ところで、製作内容や留意点等が受注者に理解しやすい規格品の場合や既に同種市販品の存する場合と異なり、新たに考案した製品を発注する場合には、製品の形状、寸法、材質、製作上の問題点、留意事項等が受注者に理解されないおそれがあるから、これらを受注者に正確に伝える必要性が高く、そのことが契約の円滑な履行を促し発注者の期待する製品をもたらす契機ともなる。それゆえ注文者においてその発注に係る製品について受注者(製作者)に格別の指図をすることが要求されるし、通常はそのように予定されているということができる。しかも本件において控訴人は、本件バールの製品化に伴いその製造法に関し特許出願をしていたのであり(乙二八)、被控訴人幸和に対し詳細な指示をする必要性は一層高かったというべきであり、このような債務の性質に合わせて前記事実経過を見ると、そもそも被控訴人幸和の作業が遅れたのは、控訴人が被控訴人幸和に対し図面等によってその要求する製品を的確に指示できなかったことに起因しているといわねばならない。また、被控訴人幸和が被控訴人須佐金型製作の金型を基に数回にわたり作成した試作品は、いずれも、控訴人がその内心において検討していたところと一致するか否かはともかく、その示した図面(甲一八、一九、二四ないし三二。ただしその書き込み、修正部分の成立につき争いがある。)と異なった製品が試作されたものとまで認めることはできない。そうすると、右製作の不完全さとこれに基づく遅滞が被控訴人幸和の不完全履行又は履行遅滞の債務不履行に当たるとするのは相当ではない。

もっとも、前記認定のとおり、控訴人が訴外東宝に対し、本件バールを平成四年五月二〇日から一二か月で出荷し、納品の開始時期が右より二か月以上遅れたときには遅延損害金支払の請求を受けても異議を述べないことを約したこと、控訴人に対し被控訴人幸和と訴外佐藤とが本件バールの部品を同年四月までに納めることを約したこと、訴外佐藤に発注したパイプ製品については同年四月ころには入荷可能な態勢となっていたことが認められる。

しかし、前記のとおり被控訴人須佐金型が金型製作を担当するようになったのは平成四年四月のことであるから、その時点で被控訴人幸和が右合意の期限に納入できないことは控訴人を含む関係者に明らかであったはずである。それにもかかわらず控訴人と被控訴人幸和との間で新たな納期を決めたり早期納入の方策を協議したというような特段の事実関係を認めるに足りる証拠はない。また前掲証拠によると、訴外東宝が損害金の請求をしたのは平成四年九月であり、現実に控訴人がこれを支払ったのは平成六年一一月であることが認められ、控訴人と訴外東宝との間の時期の合意も必ずしも厳格なものではなかったことが窺われる。そして、控訴人が被控訴人幸和に対し、期限の徒過を理由に書面による催告等の手続をしたとの事実を認めることはできず、前記のとおり控訴人は他の業者に依頼する旨告げて金型の回収をしているにすぎない。こうした事情に加えて前記のような本件バール製作の新規性とこれに伴う製造の困難性も考慮すると、金型製作の担当が訴外小林金型から被控訴人須佐金型に変更された後には、控訴人と被控訴人幸和との間で期限につき確定的な定めはなく、ただ前記のような控訴人と訴外東宝との契約を踏まえて可能な限り早期製作に努力する旨合意していたにすぎないと認めるのが相当である。したがって、被控訴人幸和に対する損害賠償請求は理由がない。

2  また、控訴人は、被控訴人幸和の被控訴人須佐金型に対する損害賠償請求権を債権者代位に基づき行使するとして被控訴人幸和に対するのと同額の損害賠償を同須佐金型に対し請求している。しかし、右のとおり控訴人の被控訴人幸和に対する損害賠償請求権が認められない以上、控訴人の被控訴人須佐金型に対する右請求は債権者代位の基本となる債権を欠いていることになるから、その余の判断をするまでもなく理由のないことが明らかである。

四  以上の事実によると、被控訴人須佐金型の本訴請求、控訴人の反訴請求はいずれも理由がなく、被控訴人幸和の本訴請求は、控訴人に対し、解除に基づく損害金五四万六四二一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成五年四月一六日(右のとおり被控訴人幸和の請求は損害金支払請求として認容されるべきものと解されるところ、右は期限の定めのない債務であるから、遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日となるものと解する。)から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

第四  結論

よって原判決は、右と異なる限度で失当であるのでこれを取り消した上、取消しに係る被控訴人らの請求を棄却し、その余の本件控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条、六四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官新村正人 裁判官生田瑞穂 裁判官宮岡章)

別紙<省略>

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